2018年06月06日
地球環境
研究員
倉浪 弘樹
最近、歩かなくなったと感じる。以前なら本は書店に買いに行ったが、今ではネットで注文して宅配してもらう。筆者のオフィスには、自席からたった10歩の距離に、セルフサービスでチョコレートやスナック菓子が買える「お菓子ボックス」が設置された。それ以来、歩いて3分ほどのコンビニに行く機会まで減った。
統計的にみても、日本人の歩数は減る傾向にある。厚生労働省の「国民健康・栄養調査」を1996年と2016年で比較すると、30~50代の男女を中心に、やや減少している。世の中が便利になるにつれて、人は歩かなくなるのかもしれない。
(出所)厚生労働省の調査を基に作成
歩数が減る代わりに増えているのが、モノが輸送される頻度だ。国土交通省の調査によれば、宅配便の取扱件数は1995年以降、増える傾向にある。一方で、出荷総量自体は減少傾向にある。つまり、1件当たりの貨物量は減っており、100kg未満の件数が全体に占める比率は、1995年の57.9%から2015年には79.2%まで高まった。コンパクトなものを多頻度で運ぶようになったのだ。
(出所)国土交通省の調査を基に作成
(注)宅配便取扱個数は年度調査、年間出荷量は暦年調査
背景には、商品を消費者の近くまで届けようとする企業努力がある。ネットショッピングやオフィスの「お菓子ボックス」もそうした取り組みの例だ。ヒトの代わりにモノが動く時代になったのである。
懸念されるのが環境への影響だ。旅客や貨物など運輸部門のCO2排出量は、日本全体の約3割を占めるが、うち3分の1を物流関係が占めている。
宅配サービス業界では不在者に対する「再配達」の増加も問題になっている。国土交通省が2014年12月にサンプル調査したところ、2回以上の再配達は約2割にのぼったという。同省は、再配達によって約1億7400万本のスギが1年間に吸収する量に等しいCO2が排出されるだけでなく、年間約9万人分の労働力が浪費されると試算している。
こうした問題を解決するため、マンションや駅などに「宅配ロッカー」を設置する動きが広がっている。政府も2017年度から、宅配ロッカーの設置に対する補助金制度をつくるなど、国を挙げての取り組みとなっている。
消費者も宅配ロッカーをおおむね好意的に捉えているようだ。内閣府が2017年に行った「再配達問題に関する世論調査」によれば、消費者の約4割が「宅配ロッカーを利用したい」を回答しているという。
しかし、その利用はあまり進んでいない。同じ調査によれば、「宅配便を受け取るために宅配ロッカーを利用した」割合は全体のわずか0.7%にとどまっているのだ。背景には「手間がかかる」「セキュリティに不安がある」「使い方が分からない」といった課題があるようだ。宅配ロッカーのサービスにはまだ向上の余地が残されている。
(出所)内閣府の調査を基に作成
利用率を高めるには、宅配ロッカー自体のサービス品質を向上させるだけでなく、利用したくなる仕組みを作ることも有用だろう。宅配ロッカーを利用する場合、宅配ロッカーまで歩いて行くという「コスト」が発生する。このコストを自宅からの距離などに応じてポイント換算し、次の利用時に使えるクーポンなどを提供すれば、利用率が高まるかもしれない。
利用者の環境意識を高めることも大切だろう。「歩く」という手段は、最もクリーンでエコな輸送手段だ。宅配ロッカーまでの道のりを少し歩くだけで環境への負荷を減らせる。どれくらいの効果があるか周知すれば、重い腰を上げる人もいるのではないだろうか。ちなみに、再配達を1回なくせば、スギの木の枝一本が1年間に吸収する量に等しいCO2量の発生を防げるようだ(1) 。宅配ロッカーのサービス向上を待たずとも、そうした「ちょっとした行動」が増えていけば、積もり積もって大きな動きとなるだろう。
6月5日は国連によって「世界環境デー」と定められている。日本では6月を「環境月間」とし、環境保全に対する関心や理解を深めるためのイベントの開催や活動を後押ししている。これを機に、環境に優しい「ちょっとした行動」を起こしてみるのも良いかもしれない。
(1)国土交通省資料を基に筆者算出。宅配便1個当たりの平均走行距離0.58kmのうち、25%が再配達に浪費されていると仮定し、そのCO2排出量を計算すると、約0.05本のスギの木の年間CO2吸収量に相当する。
倉浪 弘樹